長野県飯田市の遠山郷に伝わる「二度芋の味噌田楽」は、小粒の在来系ジャガイモを串に刺し、エゴマなどを使った味噌だれを塗って炭火で焼く郷土料理です。名前の通り、かつて夏と秋の二度収穫できた二度芋を使うことに由来し、下栗の急斜面の畑と囲炉裏のある暮らしが味の背景にあります。
この記事では、二度芋と下栗芋の関係、味噌田楽の味わい、文化財としての位置づけ、家庭で作るときの手順、遠山郷で味わう際の計画までを、2026年9月に確認できる公的・観光資料をもとに紹介します。
二度芋の味噌田楽を知る要点
- 地域:長野県飯田市上村・南信濃の遠山郷、とくに下栗
- 主役:小粒で身が締まり、甘味とでんぷん質が特徴の二度芋・下栗芋
- 調理:ゆでる、または蒸す、串に刺す、エゴマ味噌を塗る、炭火で焼く
- 文化:「遠山郷の二度芋の味噌田楽」として長野県選択無形民俗文化財に選択
- 旅のコツ:食事処や販売時期は変わるため、出発前に公式情報を確認する
二度芋の味噌田楽とは

二度芋の味噌田楽は、遠山郷で栽培されてきた小粒のジャガイモを主役にした串料理です。飯田市の資料では、二度芋を一度ゆでて串に刺し、エゴマの味噌などを塗って囲炉裏で焼く料理と説明されています。一般的な豆腐田楽やこんにゃく田楽と同じように味噌を塗りますが、ここで使うのは山の畑で育った芋です。
料理名の「二度芋」は、夏に収穫したあとすぐに植えると、秋にもう一度収穫できたことから付いた呼び名です。遠山郷観光協会の説明では、かつて夏芋と秋芋の年二回作が行われていましたが、現在の遠山地方では春作、つまり夏に収穫する作型が中心です。
なお、「二度芋」という呼び方は地域によってジャガイモ全般を指すこともあります。この記事で扱うのは、長野県飯田市の上村・南信濃に伝わる「遠山郷の二度芋の味噌田楽」です。料理名だけで他地域の二度芋料理と同一視しないことが、産地を理解する第一歩になります。
どこで伝わる料理か
伝承地域は飯田市の上村と南信濃です。どちらも遠山郷と呼ばれる山間部に含まれ、南アルプスの山並みを身近に感じる地域です。とくに二度芋の在来種が盛んに栽培されてきた場所として、上村の下栗集落が挙げられます。
下栗の里は標高800〜1000mほどの場所にあり、長野県公式観光サイトでは最大傾斜38度の急斜面に畑や家々が広がる景観として紹介されています。平地の畑とは異なる条件の中で、米以外の作物を組み合わせて暮らしてきたことが、遠山郷独自の食文化につながりました。
二度芋の味噌田楽は、単にジャガイモへ味噌を塗った料理ではありません。芋を育てる畑の形、保存しやすい作物を選ぶ知恵、身近な囲炉裏で焼く調理法が一つにつながった食べ物です。料理を味わうときには、遠山の地形と生活の道具まで想像すると、素朴な一串の意味が見えやすくなります。
下栗芋と二度芋の特徴
飯田市の文化財資料は、二度芋について、でんぷん価が高く甘味があり、肉質が緻密で煮崩れしにくいことを特徴として挙げています。また、一般的な大きなジャガイモを切り分ける料理とは違い、小粒の芋を皮付きのまま扱えることが、串焼きとの相性を高めています。
遠山郷で現在栽培される郷土種には「白いも」と「赤いも」の二系統があります。市の資料では、現在の下栗で栽培が盛んなものを地域の住民グループが「下栗いも」と名付け、品種保存や来歴、料理の研究を続けていると説明されています。平成19年には、下栗いもが長野県の「信州の伝統野菜」に認定されました。
ここで注意したいのは、資料に登場する「赤いも」の名称が一つの品種だけを指すわけではない点です。かつて名前の由来となった二度芋は昭和23年以前に栽培されていた旧来の赤いもで、現在下栗で作られる赤いもとは別のものとして整理されています。記事や現地の説明を読むときは、旧来の二度芋、現在の赤いも、白いもという呼び分けに注目すると混乱しません。
急斜面の畑が育てる食感
下栗の畑は、南アルプスの山腹に沿うような急斜面にあります。長野県公式観光サイトは、集落全体の傾斜が急で米作りが難しかったため、下栗芋のほかソバ、ヒエ、キビ、アワ、豆、お茶などが作られ、特徴的な食文化が生まれたと紹介しています。
芋の味を土だけに単純に帰すことはできませんが、標高、日当たり、斜面の畑、栽培の積み重ねが、地域の食材としての個性を形づくってきたと考えられます。南アルプスユネスコエコパークの観光情報でも、小振りな芋の甘味やでんぷん質、煮崩れしにくさが紹介されています。
いも田楽では、芋を細かくつぶしたり、別の料理に混ぜたりしません。小粒のまま串に刺し、皮の近くの香ばしさ、密度のある身、味噌だれの風味をまとめて楽しみます。素材を大きく変えない調理法だからこそ、品種と産地の違いを感じやすい料理です。
味噌だれに使うエゴマと鬼胡桃
二度芋の味噌田楽のたれには、エゴマを使った味噌が代表的です。遠山郷観光協会は、在来種の鬼胡桃、またはエゴマを炒ってからすり鉢ですり、味噌、砂糖、みりん、酢などを加えて練る作り方を紹介しています。飯田市の家庭向けレシピでは、エゴマ、味噌、砂糖、酒を合わせています。
エゴマのたれは、味噌の塩気だけでなく、炒った種の香ばしさと粒の存在感が加わるところに特徴があります。芋の甘味に対して、味噌の塩味、砂糖の丸み、エゴマの香りが重なり、炭火で表面を焼くことで香ばしさがさらに立ちます。
家庭で作る場合、たれは一度に厚く塗り広げるより、芋の表面に薄く付けて焼き、様子を見ながら重ねる方が扱いやすいでしょう。たれの配合は家や地域で違うため、エゴマを主役にするか、鬼胡桃やねぎ味噌の風味を加えるかは、入手できる材料と好みに合わせて調整できます。
囲炉裏と炭火が生んだ調理法
二度芋の味噌田楽を特徴づけるもう一つの要素が、囲炉裏の炭火です。遠山郷観光協会は、囲炉裏が飯を炊くことにも調理にも使われ、生活の中に位置づいていたと説明しています。五平餅や蕎麦焼き餅にも炭火が使われてきたため、芋田楽だけが特別に炭火料理だったというより、山里の調理環境から自然に生まれた食べ方といえます。
炭火で焼くと、味噌だれの表面に焼き目が付き、芋の皮にも香ばしさが加わります。直火の強さは場所や炭の状態で変わるため、串を動かしながら焦げすぎないように仕上げます。家庭では囲炉裏を再現する必要はなく、魚焼きグリルやオーブントースターなど、使用機器の説明書に従って安全に加熱してください。
現在は囲炉裏を備えた家が少なくなり、昔ながらの環境で調理する機会そのものが限られています。そのため、二度芋の味噌田楽を食べることは、味噌味の芋料理を食べるだけでなく、火を囲んで食事を作っていた暮らしの一端に触れることでもあります。
長野県の文化財に選択された理由
「遠山郷の二度芋の味噌田楽」は、平成14年3月15日に長野県選択無形民俗文化財となっています。飯田市は、料理だけでなく、二度芋という郷土種、急斜面の畑作、囲炉裏で焼く調理の組み合わせが、地域の暮らしを伝えるものとして紹介しています。
無形民俗文化財という言葉から、特別な祭礼の日だけに食べる料理を想像するかもしれません。しかし、この田楽の価値は、日常の食材と家の火を使った食べ方にあります。農作業の成果を保存し、食べやすい串料理に仕立て、家族や客と分けるという生活の技術が、料理の姿に残されています。
文化財指定は、レシピを一つに固定することを意味しません。味噌にエゴマを使うか鬼胡桃を使うか、芋をゆでるか蒸すか、たれにどの調味料を加えるかには地域・家庭差があります。共通する骨格を守りながら、土地の材料と家の道具に合わせて変わってきた点も、郷土料理らしさの一部です。
飯田市資料の作り方と材料
飯田市が公開するレシピは、2人分として下栗いも12個、1個30〜50g程度を目安にし、エゴマ味噌をエゴマ15g、味噌50g、砂糖50g、酒小さじ2で作る内容です。これは地域の家庭で実践できる一例であり、芋の大きさやたれの濃さによって調整します。
| 材料 | 飯田市資料の目安 | 役割 |
|---|---|---|
| 下栗いも | 12個(30〜50g程度) | 小粒で串に刺す主役 |
| エゴマ | 15g | 炒って香ばしさを出す |
| 味噌 | 50g | 芋に塗るたれの土台 |
| 砂糖 | 50g | 味噌の塩気を丸くする |
| 酒 | 小さじ2 | たれを練る調味料 |
資料にある「下栗いも」は、家庭で手に入る一般的なジャガイモとは大きさや水分、火の通り方が異なる場合があります。地元の芋を使う場合は、芋の状態を見ながら加熱し、串に刺す前に中心までやわらかくなっているか確認します。別の品種で試すときも、分量をそのまま当てはめず、たれが余るかどうかを見て使ってください。
二度芋の味噌田楽の作り方
飯田市の手順では、まず芋を洗い、皮付きのまま鍋に入れて、箸が刺さる程度までゆでます。皮をむかずに調理することで、串に刺したときに芋が崩れにくく、焼いたときの表面の香ばしさも生かせます。蒸してから作る方法も遠山郷観光協会に紹介されています。
次にエゴマをフライパンで軽く炒ります。飯田市のレシピは、エゴマが数粒はじける程度まで炒る目安を示しています。熱しすぎると香りが飛んだり焦げたりするため、音と色を見ながら加熱し、粗熱を取ってからすり鉢ですります。
すったエゴマに味噌、砂糖、酒を加え、全体がなじむまで練ります。出来上がりのたれは、串に塗りやすく、芋から流れ落ちすぎない程度のかたさが扱いやすい状態です。家庭によっては、みりんや酢を加える作り方もありますが、調味料を足す場合は少量から味を見ます。
ゆでた芋は水気を切り、竹串に3個ずつ刺します。串の先が芋から飛び出しすぎないようにし、焼く機器に合わせて長さを選びます。串を持つ部分が熱源に近づかないように置き、芋の表面にたれを塗って炭火などで焼きます。
最後に、味噌の表面が軽く焼けたところで取り出します。焼きたてはたれが熱く、串も高温になっているので、少し置いてから口に運ぶと安心です。飯田市の公式レシピは、地域や家庭によってレシピが異なることも明記しています。
味わい方と食べる順番
一串には小粒の芋が連なり、表面にはエゴマ味噌の焼き目が付きます。最初に感じるのは味噌と炒り種の香り、続いて皮の香ばしさと芋の甘味、最後に密度のある身の食感です。やわらかい煮崩れた芋ではなく、形を保った一口をかじるところに、この料理の魅力があります。
味噌だれはしっかり味に仕上がるため、芋だけでなく、そばや野菜などの山里の料理と組み合わせると食卓のバランスを取りやすくなります。長野県公式観光サイトでは、下栗芋のいも田楽を田舎そばと合わせた食事の例も紹介されています。
旅先で食べるなら、まず味噌を付けていない芋の輪郭を確かめ、次にたれの付いた表面を味わうと、食材と調味の違いが分かりやすくなります。エゴマの香りが強く感じられるか、皮の香ばしさが残るかなど、自分なりの印象を記録しておくと、ほかの田楽との比較も楽しめます。
現地で味わうなら下栗の里へ
二度芋の味噌田楽を遠山郷で味わいたい人は、下栗の里周辺の食事処や宿泊施設の情報を確認するのが出発点です。長野県公式観光サイトは、下栗の里の駐車場に隣接する食事処「はんば亭」で、田舎そばと下栗芋のいも田楽を組み合わせた食事などが紹介されていると案内しています。
ただし、料理の提供状況や施設の営業日は季節や年によって変わります。Go NAGANOの紹介では、はんば亭の営業期間を4月中旬から11月末として掲載していますが、実際に訪れる際は遠山郷観光協会や施設の公式情報で営業日、食事の内容、売り切れの可能性を確認してください。
下栗の里は、料理店だけを目的に短時間で往復するよりも、斜面の集落や展望場所を歩きながら訪ねると土地の特徴が分かります。畑と家が近い生活の景観を尊重し、私有地へ入らない、農作業の邪魔をしない、道を譲り合うといった基本的な配慮を忘れないようにしましょう。
アクセスと訪問時の注意
下栗の里は山間の急斜面にあり、長野県公式観光サイトは車で訪れる場所として紹介しています。道路には狭い区間やカーブがあるため、初めて運転する人は昼間の明るい時間帯に余裕を持って移動し、対向車や歩行者に注意してください。冬季や荒天時は、積雪、凍結、通行規制の情報を出発前に確認します。
公共交通を使う場合は、飯田駅や遠山郷の和田地区までの移動と、そこから下栗までの移動を分けて考える必要があります。遠山郷は公共交通の便が限られるため、路線バス、タクシー、宿泊施設の送迎の有無を先に確認し、帰りの便まで含めた計画を立てることが大切です。
現地の食事処は、都市部の飲食店のように常時同じメニューを用意しているとは限りません。二度芋の収穫時期、仕込み、地域行事、天候によって提供が変わる可能性があります。訪問日が決まったら、二度芋の味噌田楽を食べられるか、予約が必要か、営業時間内に到着できるかを、公式窓口へ確認してから出発しましょう。
周辺観光と組み合わせる方法
二度芋の味噌田楽を目的に遠山郷へ向かうなら、下栗の里の景観と食文化を一緒に見る旅程が向いています。急斜面の畑、集落を結ぶ道、南アルプスを望む風景を見たあとに芋田楽を食べると、食材が育った場所と料理の姿がつながります。
遠山郷観光協会の公式サイトでは、下栗の里のガイドツアー、秋葉街道、遠山の霜月祭、温泉施設など、地域の自然・歴史・文化を組み合わせた案内が掲載されています。食事の前後にすべてを詰め込むのではなく、道路状況と施設の営業日を見ながら、無理のない一つか二つを選ぶと落ち着いて回れます。
長野県全体の食文化に目を広げるなら、そばや五平餅、雑穀を使った料理などと比較するのも面白い方法です。農林水産省は、山地が多い長野県で、米が貴重だった時代に粉食文化が発達し、厳しい冬を越す保存の知恵も育ったと説明しています。二度芋の田楽も、遠山郷の地形と作物を出発点にした食文化として見ることができます。
家庭で作るときの考え方
家庭で試すときは、まず小さめで形のそろったジャガイモを選び、皮付きのまま火を通します。下栗芋が手に入らない場合でも、料理の骨格である「小粒の芋を串にする」「種実入りの味噌だれを塗る」「表面を焼く」を守ると、二度芋の味噌田楽らしい食べ方を組み立てられます。
ただし、一般的なジャガイモは品種や大きさによって火の通りが違います。大きな芋を無理に串へ刺すと、外側だけが崩れたり中心が硬く残ったりするので、必要なら切り分けて加熱します。公式レシピと同じ食材でない場合は、仕上がりを見ながらたれの量と焼き時間を調整してください。
エゴマは炒りたてをすり鉢ですると香りが出ますが、焦げると苦味が出ます。味噌と砂糖は商品によって塩分や甘さが違うため、飯田市の分量は出発点として使い、少量を混ぜて味を確認してから全量を仕上げると失敗しにくくなります。
調理後は常温に長時間置かず、残ったものは早めに冷まして冷蔵します。竹串や炭火、加熱した味噌だれは熱くなるため、子どもが食べる場合は串を外して、十分に冷ましてから提供します。家庭での再現は、文化財の料理をそのまま固定することではなく、地域資料を手がかりに安全に楽しむ方法と考えるとよいでしょう。
保存と継承の現在
二度芋の味噌田楽を支えるのは、料理のレシピだけではありません。芋の種を残して作り続けること、畑の環境を保つこと、味噌やエゴマを地域の材料として使うこと、囲炉裏での焼き方を語り継ぐことが一体になっています。
下栗では、白いもと赤いもを下栗いもとして保存し、来歴や料理を研究する取り組みが進められています。すべての家でかつてと同じ作型や道具が使われているわけではありませんが、名称の整理や資料の公開、観光案内を通して、地域外の人も背景を知る機会が生まれています。
訪問者にできる継承への参加は、料理を食べて終わりにしないことです。公式に案内された場所で味わい、地域の農産物を購入し、畑や暮らしを撮影するときはルールを守り、次に訪れる人にも正確な情報を伝えることが、食文化を支える小さな行動になります。
二度芋の味噌田楽を味わう意味
二度芋の味噌田楽は、小粒の芋と味噌だれを串で焼くという分かりやすい料理です。しかし、その一串には、二度収穫を可能にした作物の性質、急斜面での畑作、エゴマや鬼胡桃を使う知恵、囲炉裏で火を扱う暮らしが重なっています。
名前の由来を知れば、二度芋という言葉が単なるジャガイモの別称ではなく、遠山郷の農業の記憶を含んでいることが分かります。下栗芋の白いもと赤いも、現在の栽培状況、家庭ごとのたれの違いを知れば、同じ料理名でも土地によって表情が変わる理由も見えてきます。
遠山郷を訪れるときは、提供時期と交通を確認し、料理を味わう時間と斜面の景観を見る時間を分けて計画してみてください。炭火の香ばしい味噌だれをまとった二度芋は、南信州の山里を旅の記憶に残す、食べられる文化財の一つです。
まとめ
二度芋の味噌田楽は、長野県飯田市遠山郷の二度芋をゆでて串に刺し、エゴマ味噌などを塗って炭火で焼く郷土料理です。夏と秋の二度収穫できたことが名前の由来で、現在は下栗を中心に白いもと赤いもの二系統の郷土種が守られています。
県選択無形民俗文化財に選択された背景には、芋そのものだけでなく、急斜面の畑作と囲炉裏の調理を含む暮らしがあります。現地で食べる際は、下栗の里の食事処や遠山郷の案内を確認し、営業日、提供状況、道路情報を事前に調べてから訪ねましょう。


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